ビーフとは?
日本語ラップの魅力のひとつ。
それは前回のコラムでも紹介したような相手をディスる(けなす)行為です。
それもただディスるのではなく、ダブルミーニングや隠喩、韻など様々な言葉遊びを交えながら痛烈に相手をけなします。
一方的なディスでなく、そこにアンサー(ディスの仕返し)が始まると、ビーフ(けなしあい)になります。
本場アメリカでは、殺人事件にまで発展するほど加熱することもあります。
ラブ&ピースの時代に、
「相手を馬鹿にして何が楽しいんだ?!」
と思われる方も多いかもしれません。
しかし、ウィットに富んだ悪口を聞くのは案外楽しいですよ!
今回は、ビーフの紹介をしつつ日本語ラップをリコメンドします。
日本語ラップ好きにもビーフの映像のリンク集的役割になれば幸いです。
SEEDAとOKIによるテリヤキビーフ
SEEDA & OKI from GEEK – TERIYAKI BEEF
まず 1 発目。
リップスライムのイルマリとリョージ、エムフローのバーバル、ワイズ、そして A BATHING APE の NIGO で結成されたテリヤキボーイズ。
2009 年 1 月 28 日に発売されたテリヤキのアルバム「シリアスジャパニーズ」の歌詞に SEEDA と OKI の曲「サイバイマン」のリリックを引用したものがあり、そのあたりが発端となり SEEDA と OKI が 2009 年 2 月 17 日 YouTube にディスソング、テリヤキビーフをアップ!
「ニゴの仕事ってなんだ?なんだ?」
「パトロン?」「パトロン。」「DJ?」「いや、パトロン。」
「あれAPEを着てる、何かの罰ゲーム?マジ勘弁、まるで歩くまぬけ」
テリヤキディスっていうよりも、A BATHING APE のNIGO ディスに近いですが・・。
これに関して、テリヤキサイドは、アンサーを出さず、バーバルが自身のポッドキャストに SEEDA をゲストとして呼び対談。
2009 年 3 月 13 日に公開されました。
ZIMA presents VERBALEYEZ:SEEDA x VERBAL #5-1
ディスは、日本の文化になじまないと対談。
このバーバルの対応に関しては当時は様々な賛否がありました。
そして、対談に呼ばれなかった OKI が、ポッドキャストの公開された翌日の 2009 年 3 月 14 日にさらなるディス。
OKI from GEEK ” Shall We Beef ”
「なんで、俺だけ誘ってくれないんだよ、さみしいじゃねえかよ」
と、テリヤキ一人ずつディス。
「金持ち、喧嘩せずじゃ、嫌ー。」
結局、誰からもアンサーはありませんでした・・。
テリヤキボーイズから明確なアンサーがないまま突然、ギネスよりSEEDAへのディスソング。
1 分 54 秒から曲は始まります。
GUINNESS – SEEDA is Fake
わずか 3 日後には SEEDA による痛烈なアンサーがアップ。
SEEDA – 的を外し続ける退屈な主張
ギネスも 2 日後にはアンサー。
GUINNESS – 暴言 part 2~SEEDA is Fake~
そして、SEEDAもさらなるアンサーをして終了しました。
SEEDA vs. ギネスは、皮肉にも喧嘩を売られた側の SEEDA の知名度とプロップスを得るものになりましたが、YouTube を用いて凄まじい速度でビーフがおこりました。
SEEDA – LAST ANSWER
また、MC NANASHI と名乗るラッパーからのシーダディスも発生。
YouTube などのネットサービスが発達した時代だと無名の MC も参加できるのがポイントです。
誰彼かまわず相手にされるということはありませんが、アップした曲がかっこよければ無視できません。
TERIYAKI BEEF DIS SONG – MC NANASHI
ZEEBRA による KJ (Dragon Ash)へのディス
まもなく再始動の噂も高い ZEEBRA と K DUB SHINE, DJ OASIS によるキングギドラ。
2002 年にリリースしたアルバム「最終兵器」にて kj (降谷建志) に対してディスソングを発表しました。
「最終兵器」は当時オリコン 3 位ともっとも売れた日本のディスソングかもしれません。
キングギドラ / 公開処刑
Dragon Ash のkjは、ZEEBRA について影響を受けたアーティストの一人に挙げており、「Grateful Days」では ZEEBRA と競演するなどピースフルな関係でした。
しかし、 2000 年に発売した「Summer Tribe」があまりにも ZEEBRA とそっくりで「インスパイアを超えている」とディスに発展しました。
Dragon Ash / Summer Tribe
参考までに ZEEBRA の名曲、1997年に発売された、真っ昼間。
ギャングスタでもギャグラップでもなく、日常をラップした曲。
漫画「バクマン」7巻で高木秋人が「一番スゲー漫画家はなにか?平凡な日常を面白くかけたらそれが最強」と述べていましたがまさにそのラップ版です。
Zeebra / 真っ昼間
大阪での勃発した ROAR と MACKO とのビーフ。
大阪のシーンについては詳しくないですが、大阪でも YouTube を用いたビーフが発生。リンクのみ。
ROAR (SOUTH OSAKA SQUAD) “MACKO DISS 真っ向勝負”
ROAR (SOUTH OSAKA SQUAD) “TECHNICAL KNOCK MACKO”
ほかにも日本で有名なビーフは、
ブッダブランドのデブラージとキングギドラのケーダブシャインのビーフ、
MSCの漢とNITRO MICROPHONE UNDERGROUNDのDABOのビーフ、
ライムスターのMummy-DとTHA BLUE HERBのILL BOSSTINOのビーフなどがあります。
本場アメリカのえげつないビーフについて
世の中で一番有名なビーフが、ノトーリアス・B.I.G(ビギー)擁する東海岸のレーベル、バッドボーイと 2PAC やスヌープ・ドッグを擁する西海岸のレーベル、デスロウの抗争です。
事の発端は 2PAC が 1994 年 11 月に何者かに銃撃された事件が起き、その犯人がバッドボーイ側の犯行と疑われたことから始まります。
個人間ビーフがレーベル間ビーフに発展し、最終的には東海岸と西海岸の地域の争いまで発展。
ディスソングの内容もひどく過激になり、世間の注目や CD の売り上げもあり、アメリカのメディアも東西対決を煽りました。
最終的には、1996 年にデスロウの 2PAC が何者かに射殺、1997 年 3 月にバッドボーイのビギーも同じく射殺され、どちらの事件も犯人が捕まらないまま二つのレーベルのトップスターが命を落とすという最悪な結果で終結しました。
マフィア説やレーベルの陰謀説など様々な憶測がありますが、銃社会アメリカを象徴する事件でした。
ビーフを語る中で避けられない事件。ドキュメンタリー映画や書籍は多数出版されていますので、興味のある方はぜひチェックしてみてください。
漫画「デトロイトメタルシティ」5巻の音源化
最後におまけ。
漫画「デトロイトメタルシティ」でまさにラッパー同士のビーフに発展するシーンがあるのですが、環ロイが漫画のラップを元に改変してラップミュージックを作ってます。
漫画上の甘い韻をしっかり踏み直して作り直し、原作の雰囲気を守りつつ、ロイヤルを演じてます。
ヒップホップの魅力は、自由性とサンプリング。
漫画をネタにしたものや、アニメネタだったと思ったら、政治色の強いものだったり。
様々な文化、音楽と混ざり合います。
次回は、大麻やナンパではないクラブミュージックのすすめ
SEEDAは、ギネスに対して、お前みたいなやつがいるからヒップホップ=暴力と思われ、クラブに行くやつが減るんだよ。とディスしています。
実際、私自身クラブのことを「暴力、大麻、ナンパばかりが起きている場所」と誤解され、敷居の高い場所になっているのではないかと悲しんでいます。
でも、クラブは、本当はグッドミュージックを大音量で聞ける大人の遊び場。
いろいろなロックフェスでも DJ ブースが人気になっている昨今、純粋な音楽好きがもっと気軽に来れる場所になってほしいと願っています。