ロクヨンのマリオカートとハチヨンの僕




これまでの人生で最もヒマだった時期は?と聞かれたら
小学校を卒業してから中学校に入学するまでの期間、と答えると思う

小学校はサッカー少年団のちょっとした名門校で
毎日の朝練、週一の夕練に加えて
ほぼ全ての土日が練習試合やら大会やらで埋まっていた

昔から人に怒られるのが大の苦手だった僕は
週末が来るたびにピッチで監督に浴びせられる怒声に耐えるのが本当に苦痛で
ただ辞めますという勇気がないというだけの理由で
小学校の卒業までその苦行の日々を過ごしていた
 

日数でいうと2、3週間程度の話だろうか
そのサッカーの重圧から唐突に解放された僕は
カンペキに自由な「お休み」に何をしてよいかわからず
毎日のように地元の小さなレンタルCDショップに通った

その店に併設されたテレビゲーム販売コーナーに
当時発売されたばかりのNINTENDO64が置いてあって
「マリオカート64」のお試しプレイができるようになっていた

そこでマリオカートをしていると
そのうちきまって同じく休日の過ごし方を知らない
チームメイトの緒方君と金本君がやって来るのだった
 

毎日のようにそこで3人でしばしマリオカートをやってから
同級生の姉貴が働くセイコーマートで
60円のスパークリングコーラとスーパーカップ1.5倍かやきそば弁当を買って
近所のマンションの駐車場の、ちょっと座り心地の良いコンクリで
恐いおばさんの目を避けつつ飲み食いしていた

どんなことを話していたのか全く覚えていない
何が楽しかったのかも今ではよくわからないが
それでも毎日そこに行けば必ず緒方と金本がいて
晩飯の時間になれば翌日の約束をするでもなく解散した
 

本当にたいした事件もない、退屈な期間だったんだけど
時々昔のことを思い出してみるとき
頭に浮かぶのは、息つく暇もなかった小学生のときのことではなくて
見事に何もなかったあの「お休み」のときのことだったりする

緒方とも金本とも中学校まで同じだったのだけど
高校で別々になり、それっきり疎遠になってしまった

大学生くらいの頃にたまたま金本と再会する機会があって
今度飲みにいこうよなんて話をしていた
掘り起こせば話すこともいろいろあるっしょ?って言った金本が
あの時期のことを思い出していてくれたらいいなぁなんて思ったりしたが
そういえば結局その飲み会は実現してない
 

最近になって、たまたまマリオカート64をプレイできる機会があって
そんなことを思い出しながらロクヨンのハンドルを握って
十数年の時を経て、初めて気づいたことがある
僕は、そのゲームを何も理解していなかった
ミニターボというものがあることも
ロケットスタートのタイミングがスーファミ版と違うことすらもわかってなかった

要するに、僕はそのゲームに全然熱中していなかったのだ
毎日のように同じゲームのコントローラーを握っていながら
実際は、それにすらも全く身が入っていなかったのである
なんて素敵な時間の使い方だろう!
 

気づけば僕はすっかり退屈を恐れる人間になってしまっている

華やかなアクティビティのない休日を過ごしてしまうたびに
人生の貴重な時間を無駄にした気持ちになって落ち込み
誕生日を迎える度に残り時間を宣告されているような感覚に陥ってあせる

ナニカシナクシャ、ナニカシナクチャ。

あの有意義な日々に学んでおくべきだったのは
ミニターボよりもドリフトよりも
上手なブレーキの踏み方だったかなと、今にして思う

この記事を書いた人

akio 札幌生まれ、札幌育ち。 家庭教師仲介の個人事業を経て、現在はソフトウェア開発に従事。自称ジャストアイデアマン。ワクワクにコミットして生きたい。 BLOG:負けまいとする心でしょう!

あわせてどうぞ