アート×ITが広げる新しい可能性−ハチヨンアーティストとWeb個展


こんにちは。ここ数年「アート×IT」というキーワードが気になっているchiquichikaです。
そんな私に、昨年末ハチヨン世代の友人・松下沙花(さか)さんから、Web個展の開催案内が届きました。

ついに個展もオンラインの世界へ。Webでの展示づくりやアート体験ってどんなものなんだろう?というわけで、沙花さんにWeb個展に至った経緯や展示づくりの裏話、そして制作活動について話を聞いてきました。

沙花さんは、大学時代にイギリスとカナダでファッションや舞台美術を学び、その後はロンドンでフリーランスとしてテレビドラマの衣装や演劇インスタレーションなどを手がけていました。いまは、日本でアーティストとして活動する傍ら、こども向けアートワークショップの企画などもおこなっています。

最近の活動では、昨年1年間をかけて毎日iPhoneで絵を描いて投稿するプロジェクト「Daily Saka」を終えたばかり。人を惹きつける魅力をもった、素敵な女性です。

松下沙花 Web個展「1, 2, 3」

"eat my heart out" 2012 (c) Saka Matsushita

"eat my heart out" 2012 (c) Saka Matsushita


松下沙花「1, 2, 3」
※会期は1/31まで。PCのみ、リンクの中のサイトからfacebookログインをすると個展の詳細が見られます。以下の記事内には、作品のネタバレがありますので、よかったら作品を先に見てみてからご覧ください。
2013.2.6追記。Web個展の会期が、【2月15日】まで延期になりました。まだの人はぜひご覧ください!)

まずは、初個展おめでとう!!
ありがとう!!(笑)

今回の展示について概要を聞かせてください。
FFLLAATT(フラットフラット)というオンラインギャラリーで、展示をすることになりました。

私は学生時代から自分の夢を日記のように記録していて、その記録をもとに作品制作のインスピレーションに活かしています。作品では、私が実際に見た夢の状況とまったく同じようにセットを作り、そのシーンを俳優に演じてもらっています。そうして夢を再現してみたらそれは現実になるのか?もし作ったものが現実といえるなら、夢の終わりはいつくるのか?そんなことをテーマに、会期を通じて3つの作品が順に公開される予定です。


"Sunny Side Up" 2012. (c) Saka Matsushita

展示準備中の3作品目より。"Sunny Side Up" 2012. (c) Saka Matsushita

1つめの作品「Eat My Heart Out」は、とてもかわいくてハッピーな雰囲気なのかと思いきや、意外な展開にドキッとしますね。

そう。「驚いた」っていう人が多いんですよ!でも、作品に出てくる心臓は私の中では思い出の象徴。作品の中に胸から心臓を出したあと、一度自分の身に引き寄せて赤ちゃんを抱っこするみたいに見ているシーンがあるんだけど、そこが一番気に入っている写真なんです。嫌な思い出も良い思い出も一度自分の目の前に出して、それを大切に抱えて、これから食べるけどこのことは忘れないよ、というような思いも込めています。

Web個展に至った経緯は?ギャラリー空間での展示も考えていたんですか?

1つめの作品「Eat My Heart Out」は、どんな形式で発表するか作ったときからずっと悩んでいたんです。ギャラリー空間で展示することももちろん考えましたが、写真を全てプリントして展示するのか、それともプロジェクションで見せるのか。見せ方は本にするしかないのかなとも考えながら、未発表のまま手元にずっと置いている状態でした。

そんな中、キュレーターの清水さんから声をかけてもらいました。彼女からオンラインギャラリーの話を聞いたときに、あ、これはWeb上で発表するのがちょうどいいかもしれない、と思ったんです。

じゃあ、もともと作っていた作品とWeb個展の形式とがぴったり合っていたんですね。

そうなんです!!すごくラッキーだったと思います。そして、Webで発表するならWebでしかできないことを、ということで色々と工夫しました。

たとえば写真をめくる操作。この作品は80枚の写真で作られていて、観る人がスクロール操作をすることでシーンが進んでいきます。自分の操作で写真をめくることで、見る人が彼女に心臓を出させているような気分になると思っています。他にも、音楽やフォントなど様々なところに工夫をしています。

2つめの作品は150枚の写真、3つめの作品は製作中(インタビュー当時)ですが、それぞれ全然違う感じになる予定です!

やってみてどうでしたか?オンラインならではの難しさはありましたか?

技術的なことに詳しくないので、そういった面での苦労はかなりありました。それから、すごく難しいなと思ったのが実際にどう見られているのかがわからないということ。家で見るとか、会社で見るとか、シチュエーションによって作品の見方が変わってくると思うし。

実際見た人に話を聞くと、予想以上にいろんな見方をされてて驚いています。どういう風に見られているのかは、やっぱり気になりますね。

なるほど。でも1対1の親密さや、実際のモノが目の前になくて手に触れられないWeb個展という形式は、夢というテーマにも合っているのかも。

これまでの制作活動、そしてこれからについて

これまでのアート活動のルーツは舞台。空間をともなう芸術をずっとやってきたと思うんだけど、現在はオンラインの活動が多い感じですね。

オンラインでの活動はDaily Sakaが始まりです。iPhoneで毎日絵を描き続けるプロジェクトだったんですが、始めたのは…iPhoneを買ったのがきっかけです(笑)。

最初は友達2人にメールで送っていただけで、期間も100日間のつもりでした。それが面白いからもっと他の人にも送りなよということになり、さらにそれが5人になって、10人になって。そうすると今度はTwitterとかブログでやってみたら面白いんじゃない、と言ってくれる人がいて。そうやってどんどん広がっていった感じです。

なので、今オンラインでの活動が中心になっているのはなりゆきかも(笑)。でも、このDaily Sakaをキュレーターの清水さんが見てくれたことで、今回の個展につながりましたので、気づいたら新しい活動へ変わっていったのかもしれませんね。

"yellow night and a blue horse. dec 4 from Daily Saka". 2012. (c) Saka Matsushita.

"yellow night and a blue horse. dec 4 from Daily Saka". 2012. (c) Saka Matsushita.

Daily Saka

Daily Sakaを始めるまでは、制作活動にはしばらくブランクがあったみたいだよね?

2010年に日本に帰国してからは、子供たちにアートを教える仕事をメインにしていたのですが、ずっとこのままでいいのかと悩みながら過ごしていました。

そんなときに震災があって。いや、このまま私死にたくない!!と思ったんです。

それで、思い切って制作活動を中心にした今の生活スタイルに変えました。震災みたいな大きい出来事がなければ、そのままなんとなく仕事をし続けていたかも。

Daily Sakaを1年やりきってみて、何か変わりましたか?

変わりました!!まず、アートプロジェクトをやろうという意欲がこれまで以上に出て来ました。以前は衣裳や舞台にこだわっていたけれど、それに限らず何か表現の場がほしいんだ、ということも実感できました。

今後のプロジェクトの予定は?

2013年はいろんなプロジェクトをやってみたいと思っています。

Daily Sakaが終わったので、次は印刷物として形にしたいと思っています。それからDaily Sakaや今回のWeb個展の1,2,3の作品をもとに、小さな映画をたくさん作りたいなと思っていて、NYに住んでいる映画監督の友達と相談中です。あとは仕事で子どもとずっとかかわってきたので、子どもとアートにかかわれるプロジェクトもしたいなと思っています。

松下沙花さん

松下沙花さん

映画や舞台でいろんな人と一緒に作品を作ってきたこともあり、人となにかコラボレーションすることが大好きなんです。今回の作品も俳優、メイクさん、写真家、音楽家、展示にあたってはオンラインギャラリーのディレクターとプログラマー、そして今回声をかけてくれたキュレーターといった多くの人とかかわりながらつくってきました。

お互いに育った環境も全然違う、異なる意見を持つ人たちが1つの作品を作るというのはすごく難しいことだと思う。その互いの意見が合わさって一つの素晴らしい作品ができるというのは、一人で作品を作る事よりもきっと難しいと思うからこそ、大きな魅力だと感じています。

私はイラストレーターでもないしペインティングもできるわけじゃない。でも、コラボレーションをしながら作品を作れるアーティストになりたい。そしていつか、アートだけで自立していきたいと思っています!!

どうもありがとうございました!

アート×ITで広がる可能性

話を伺っている間、ずっと素敵な笑顔で話をしてくれた松下沙花さん。インタビューを通して、オンラインでのクリエイター支援はアーティストの表現活動の可能性を広げていることを感じました。

同時に、技術的なものの理解度によって表現に影響がでるといった壁や、作品メディアによる向き・不向き(たとえばオンラインギャラリーなら彫刻や絵画に比べて写真や映像の方が親和性が高そう)などといった課題や特徴も感じられました。

今回はオンラインギャラリーを取り上げましたが、近年さまざまなWebでのクリエイター支援サービスが登場し、注目されています。気になるサービスがある人は、ぜひ教えて下さい!!