“働く”って、めんどくさくね? vol.12「ほんとうに、今この仕事ができてよかった」


私には、大切な友人がいます。
彼女に「宮城に行くんだけど誰かステキな84世代知らない?」と聞いたところ、
「この子を紹介します。あたしの親友なんだ」
と返ってきました。
紹介していただいた子、それは、“スタッズベルト”を作っている女性でした。

スタッズベルト。ご存知でしょうか?
『スタッズ』つまり『鋲(びょう)』をベルトに打ち込んで装飾しているベルト。パンク系の人とかカウボーイとかチャンピオンとかがつけていそうな、ゴテゴテの、アレです。
そのスタッズベルト(=スポッツ装飾ベルト)を制作しているという横山さん。
うーん、どんなパンキッシュな人なんだろうか。
…と思っていると、送られてきたメールはカラフルな絵文字満載。え、なに、カワイイ!?

——当日、仙台駅近くの待ち合わせ場所に現れたのは、小柄で細くて、そんでもって色気のある女性でした。
舌足らずな喋り方で、さばさばと物を言う彼女。
さあどんな話が、聞けるのやら。

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『ほんとうに、今この仕事ができてよかった』
横山美保(スポッツデコレーター/宮城県)


宮城県古川市出身。宮城文化服飾専門学校デザイン科卒業。販売員などを経て、22歳からACE WESTERN BELTSでスポッツデコレーターの見習いに。
1984年8月9日生まれ。

ACE WESTERN BELTS

東京で働こうと思ってた

スタッズに関わることになったきっかけは何?

スタッズを知ったのは、服飾専門学校のクラブ活動でレザークラブに所属していたときです。当時は、ちょうどスタッズブームだったのね。自分で買うと2万くらいかかるから、作れないかなと思って。実際作ってみたらすごく楽しかった。
もともとは服を作るのが好きで、文化祭でファッションショーをしたりしていたんだけど、途中で向いてないなと思ったの。自分自身がそこまでのめり込むことができなかったんだよね。そんなときにスタッズにハマって、こういう仕事をやりたいなと考えるようになったんです。
地元にはスタッズに関わる仕事がないと思っていたので、東京に行くつもりだった。でも横浜の皮を扱う会社に問い合わせたら「女の子だし力仕事だし、それに地方から出てきてそんなに給料払えないから無理」と断られたの。そんなことが何度かあって…それで、好きな仕事やるにはお金が必要なんだなって思った。だから、ある程度お金ためてから東京に行こうと思って宮城でショップ店員になったんだ。でも地元にいたら、やっぱり地元がいいなと思っちゃった。

とくに、仙台はすごく都会だよね

うん。東京に行かなくてもなんでも手に入る。それだったら、スタッズを作る仕事ではないけれど、こういう商品を扱っている地元のお店に勤めようと思って最初は古着屋さんで働き始めたんですよ。
そこはかっこいいベルトが置いてる店で、そのベルトが毎日見れるような職場ならいいかなあと思ったんだ。
そしたらそのお店の人が、「実はこのベルト、仙台で作ってるんだよ」って教えてくれたの。
そのベルトは会社ではなく個人で制作されているものだったから、後日その人が納品のためにお店に来たときに、「好きなんです」と自分が作ったベルトを見せたの。そしたら興味を持っていただいて、ベルト作りを教えてくれることになった。それが22歳のとき。

それが今の仕事に?

そう。でも、お給料をもらい始めたのは今年の1月からなの。それまではずっと他で接客業をして稼ぎながら、ちょこちょこ教えてもらったんだ。今はお給料がもらえるようになったから、その接客業もやめてスタッズだけに専念してるよ。

皮に関わる仕事でも、たとえばバックを作るとか財布をつくるとか、そういうのはあると思うんですよ。でも今働いているところはスタッズだけの専門職で、それこそスポッツデコレーターみたいなかんじ。
それに、仕事がひとつになったぶん、自分の時間も増えた。今は基本的に週休2日で、一日とりあえず7時間働けば何時からでもいいの。だいたい一個作っちゃうと集中しちゃうんで、7時間なんてあっという間。
休みの日には、バイクの免許とるための講習に通ってます。

こだわりの、復刻版スタッズ

みほさんのお店で作るスタッズは、他とは違うの?

うちのベルトは、30〜50年代の復刻版なんですね。オリジナルをつくることもあるけど、基本的には当時の技術・材料・デザインで、限りなくその時代に近づけて制作してる。
スタッズは、手作業に価値があったり、ビンテージ感がでると思われていることもあるみたいですけど、うちは手作業じゃなく機械を使います。それが当時の作り方なんですよ。スポッツマシンという専用の機械で作るんです。復刻版を作るというこだわりですね、そこは違うんだぞ、みたいな、(笑)
他にも、これは店では特別に注文があった時にしか使わないけれど、ジュエル(飾りの宝石)も50年代当時のものと今のものは全然違う。今のもの比べると、当時のジュエルはなかのカットが違って、昔のほうが立体感があって反射がギラギラしてるんですよね。こういうのを見るのも、なかなか面白い。


そうなんだ!いままで気にしたことがなかった…
現在は、復刻版ではなく今の技術で作られているのが主流なの?

今、当時のものはあまり作られていないみたい。もともとこれってアメリカのファッションシーンなのに、アメリカ人でこういうのを極める人が今は少ない。もったいないよね。だからうちはこだわる。実際、海外からの発注もあるよ。

やめたいって思ったことはないの?

今のところはないですね。この仕事でメシ食っていけたらいいなーと思ってます。
今まで、女だから、って理由でバイトを断られたことも何度かあったけれど、今、仕事を教えてくれている人はそういうことは言わない。そこは、とてもありがたいと思ってます。この仕事は力仕事だし、手マメもできるし、大変といえば大変です。
それに、1対1で教えてもらっているからこそ、真剣勝負だし。失敗した時も、すいません、とちゃんと向き合わなきゃいけない。
厳しいけれど、こういう仕事はすぐにお給料をもらえる仕事じゃないから、今お給料をもらって働けているのはすごく有り難いですね。

今はまだ、勉強中。今後のことはわからないな

ずっと今の仕事を続けていくつもり?

ずっとこの仕事をやっていきたいと思ってます。
できればいつか、お店がほしいですね。今は、直接商品を販売する店舗がないんですよ。なので、実際にお客さんに手に取って見てもらえるお店があったらいいなあ、と思います。

独立したいということ?

そういうふうには思ってないですね。自分はまだまだ勉強中の身なので、これからどうなるかはわからないです。師匠ほど苦労をしているわけでもなく、知らないことがたくさんある。ようやく今の仕事につけただけでもよかった。

そうかあ。いつかお店がもてるといいねえ

自分のお店を持ちたいというのはただの理想なので、現実的にはどうだろう…商品のメインはベルトだけだしね。
でも自分は販売や接客は好きなのでやりたいという気持ちもあります。接客業をしていたときは、ほとんど自分1人で月の売り上げ目標をたてたりしていたので、経営的なこと考えるのも好きなんです。

お。じゃあ接客業やっててよかったね

そうですねえ。人と話すのも好きだし。お客さんに「ここ服屋なのに喋るし、スナックみたいだよね」って言われてた。でも私には、お酒を作ったりとかテキパキできそうにないです。居酒屋さんとか飲食系の人すごいなーって思う。
逆に、今は人と接しない仕事になっちゃったから、ちょっと寂しいかも。あー誰かと話したいなーって思ったら、来てくれたヤマト運輸のお兄さんつかまえたりして(笑) 私、職人向きじゃないのかなー。

でも作るのがすっごい楽しいって感じに見えるよ

そっすね〜。すごく楽しい。モノを作るのが好きなんです。できたときの充実感がたまらない。
ここに辿り着くまでは、長かったですね。でもほんとうに、今この仕事ができてよかったなーって思ってます。
早く一人前になれるように頑張りますよ(笑)

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100年近く前からある、スタッズの製品。
それを作ることが好き。

けれど好きな仕事は需要がないから、じゃあ好きなものに関わる仕事をしよう。そう思う人は多くいると思う。
でも、彼女は作ることに携わることができた。それは彼女の努力かもしれないし、運かもしれない。それはわからない。
わかったことは、横山さんが、今の仕事ができていることに感謝し、続けて行こうと努力していることでした。それは単純に、スタッズが好きだから。

私の大切な友人の腕には、横山さんからもらったスタッズブレスレットが巻かれています。
白い革にピンクのスタッズ。
パンクにもガーリーにもなれる。

ひとつも革製品を持っていない私でも、100年の歴史が欲しくなりました。