“働く”って、めんどくさくね? vol.8「“育てて”いきたい」


仙台駅。私はびびっていた。
びびっているってことをごまかすため、背筋をのばして顎を引いたけど、どっちにしろびびっていた。

前夜、インタビューをさせていただくため、宮城県で布おむつを作る仕事をしている西村さんとメールで待ち合わせの約束をした。
友人の紹介で、初めて会う女性だ。
それだけでもちょっと緊張していたのに。届いたメールはコレだった。

”宮城で一番派手な格好をした カリアゲ全開のガラ悪そうな女を探せばすぐに見つかると思います”(原文ママ)

…………どっ、どんな人が来るんだろう?

当日。

待つこと十数分。 一目でわかりました。
たしかに、カラフルな服装にカリアゲ。はっきりした物言いに、そしてはっきりとした、笑顔。

びびりはどこかに行った。
そのかわり、べつの緊張がきた。
やべえ、楽しいインタビューになるな。そんな気がした。

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「“育てて”いきたい」


西村早織(「桃色組」団長/宮城県)

西村早織…小さな頃からテューバを学ぶ。東京音楽大学を経て、その後出産。2007年9月、布おむつ販売サイト『桃色組』を立ち上げる。宮城県出身。1984年6月26日生まれ。
「桃色組」公式サイト

音楽をやめて、自分にはなにができるんだろうって考えた

布おむつの販売に関わる前はずっと音楽をやっていたの?

もうずっと音楽しかやってこなかったよ。自分から音楽をとったら何も残らないと思ってた。
音大ではチューバを専攻していたんだけど、大学3年生にあがるときに勝負をしたんだよね。“この1年で絶対後悔しないように練習してなにか結果を残す”っていう勝負。その1年間、早朝から深夜までずっと練習してた。
でも結果は残らなくて…そのときに、私の将来進む道は音楽じゃないのかもしれないと思ったんだ。
それで、門下の先生からあまりよく思われていなかったバイトをはじめたの。音大というすごく閉鎖的な空間にいたけれど、外に出始めたらいろんな選択肢があるってことに気づいたの。じゃあ自分にはなにができるんだろうと考えたときに辿り着いた答えが、『共感覚』なんだよね。

きょうかんかく?

そう。共感覚。人によって少し違うんだけど、私の場合は、色で声や文章を認識するタイプの共感覚なの。

??? もっと詳しく説明お願いできる?

たとえば、こういうテストがあるの。「5がたくさん書いてあって、そのなかで2を探しなさい」というテスト。5と2がたくさん書いてあっても、私には色が違うからすぐにわかるの。5は緑で2は赤だから、瞬時に見つけられる。このテストで、色が違って見えた人は『共感覚』なんだって。文字が色で認識できるから、本を読むのも速いよ。これくらいのスピードで読めるのね。(0.5秒くらいでページをめくる仕草をする)
共感覚を活かせる方向はなにかと考えて、ファッションに関わろうと決めたんだ。もともと服を作ることは好きで、よく作ってたしね。

妊娠。帰省。ウェブショップの立ち上げ。

それで、おむつを?

まずは、音大に通いながら服飾系の専門学校の特待をとったんだ。音大は音楽のプロになるための通過点でしか考えてなかったから、もう音大ですることはないと思ったの。そしたら、妊娠していることがわかった。だから専門には行かずに、宮城の実家に帰ってきたの。そこで、子どもが産まれたことをきっかけに、おむつを作ることにしたんだ。

なぜウェブショップに?

私はシングルマザーだから、娘を1人で育てなきゃいけない。就職したいけどすぐに保育園に入れることもできないし、産後のひだちも悪かったから外に出られなくて、そこでできることはなんだろうと考えて、ウェブショップだったの。
でもそれまでずっと楽器しかやってこなかったから、インターネットの知識とかなくてとにかく必死だった。HTMLってなに? って。
朝から晩まで子どもが寝てる1時間ぐらいの間にパソコンと向き合って、夜中も子どもが泣いたら子どものところへ行ってという生活が1年半くらい続いたかな。営業もなにもわからなかったから、いろんな店に直撃で訪ねて「チラシ置いてもらえませんか」と頼んで何回も追い返された。そのたびになにが悪いんだろうって、反省して実践して本で学んだりしながらまた反省をくり返したよ。
でも楽器よりはつらくなかった。だから、やっぱり音楽じゃなかったんだな。

桃色組。なのに、団長?

サイトの名前はどこからきたの?

私の名前“西村早織”って、オレンジからピンク色のグラデーションに見えるの。その中間が、桃色。

「桃色“組”」なのに、団長?

それは大学のときの演奏会で団長をやってた名残だよ。団長は部長とはまた違うポジションなんだけど、団長は学年で一番怖い人がやるっていう(笑)
サイトを作る時も、桃色団ってしようかと思ったんだけど、「桃色団」だとちょっと変だから桃色組にしたから、ちょっと適当かな~。

団長ってことは、社長みたいな立場かな。何人くらいで運営してるの?

基本的には私ひとり。ブログを人に書いてもらったりはしてるけどね。仕事がないとか借金まみれだとか、お金がないっていう人たちを雇って手伝ってもらってる。でも個人事業主だよ。

布おむつは、子どもとのコミュニケーションのため

紙おむつより、布おむつ?

私は、子どもに手をかけたいなと思っているの。
私は見た目が派手で、お前そんなナリしてちゃんと子ども育てられるのかって言われるけど、でもさ、こんなナリしてんのにちゃんとやってたらかっこいいじゃん。
だから私は好きな格好もするし、きれいなお母さんって言われたいし、かっこいいねとも言われたい。でもやることはやりたいし、子どものための時間も減らしたくない。だから子どもに手間をかけたいっていうのからまずはじまったのが布おむつだったんだ。

たしかに布おむつは洗濯の手間もかかるし、紙おむつのほうが楽でいいよ。でも、布おむつってまめに取り替えるから、そのぶん子どもとのコミュニケーションが増える。子どもは親に愛情をかけてもらわなきゃ育たないから、絶対に金をかけるよりも手をかけてやりたい。だから布おむつなんだよ。
それに、かわいくてカラフルな布おむつだと、このまま外を歩いていてもおかしくないしね。「かわいいおむつね」「どこで買ったの?」とかって近所のおばちゃんやママ友が話しかけてくるんだよね。そういうことで周囲との交流がうまれて、みんなで子どもを育てていける環境を作りたいっていう意味も入ってるね。

かわいい!外は和柄で、なかは水玉なんだ!

そう。なかはいろいろ変わるんだよね。毎回違うと、かわいいー!ってなるじゃん。洗うのも楽しいし!

肌触りもいいね。パジャマみたい。自分でつくるの?

発注ではなくて、自分でひとつひとつ縫うよ。柄の組み合わせも自分で決められるからいろんなものが作れる。お母さんが気に入っていた服を子どものおむつにしたいっていうお客さんもいるよ。

おむつ作りにも、子育てと同じで手をかけてるんだね

自分で作ると商品にこだわれるしね。1枚の布からおむつの型をとるんだけど、そうすると縫い合わせるより布が必要になるけれど、漏れは防げる。そういうところにこだわりたい。
一個1500~2500円くらいだけど、このサイズで3ヶ月~1歳くらいまで入るから、使える時期が長いの。それに、一度買えば1年くらいは使えるから、すごく経済的だと思うよ。

根本に、“育てる”こと

これからも、おむつの販売はウェブでだけの活動?

今のところそのつもりかな。
でも、今でもウェブ以外に、イラスト書いたり文章書いたり、いろんなことをしてるよ。仕事って、なにかをしてたらなにかに活かせるじゃん。そう思っていろんなことやってる。そのうち音楽事務所みたいなのもやりたいな。

じゃあこれからまた方向性は変わっていくかもね

今、26歳って中途半端な年齢だと思うんだよね。たとえば、下もいるし、上もいるし。仕事でも、私は今ようやくいろんな人に「うちで働きなよ」って言えるようになってきた。でもそれまでに、上の人達にすごく助けられてる。だから次は、自分ができることを他で還元しないとね。

後輩もできてきて、上にしてもらったことを下に還すっていうことかな

そうだね。「子育て」というのが、私の根本なんだよね。子育てを通してコミュニケーションしたり、自分がやってることでなにか“育てる”ことに貢献できたらなって思うの。
人って1人では生きられないじゃん。でもひとりで解決しなきゃいけないことはいっぱいある。だけど、その解決の手助けをする人は必要だと思うんだよね。そういう人になりたい。
まわりの友達や後輩で、金がないとかニートだとかっていう人たちを、「26にもなってニートとかって親に食わせてもらってるのも親に悪いんだから、タバコ代だけでも稼ぎにこい」ってうちで働いてもらうのも人を“育てる”ことだと思う。私はそんなに偉い人間じゃないけども、人を助けて人に助けられて生きていくことができたら、一番ベストかな。
だから、“育てる”ことはどんなに貧乏でもやめない。その根本は“子育て”だから、たとえ商品の制作を誰かに依託する形になったとしても、布おむつだけは続けていきたい。

子どもが大きな存在なんだね

子どもを産んで、自分でもすごく変わったと思うよ。
子どもができたらいろんなやりたいことが制限されると思っていたんだけど、よくよく考えたらなにも制限する必要はなくて、制限しているのは自分自身だなって気づいたんだ。今は本当に、娘に支えられてるよ。

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「布おむつだけじゃなくて、ズボンもあるよ。おむつでおしりが膨らんだ子どもでもゆったりと着れるように、股に余裕があるズボンなの。タイパンツみたいな。大人用もあるよ」

布おむつだけじゃない。
そこから広がるいろいろなことにアクティブに取り組んでいる彼女は、とても楽しそうだった。
けれど娘さんのことを話すときはまた違う顔……しっかりとお母さんの顔で、かっこよかった。

最後、握手をして別れた。
それが思いのほか力強かったので、ちょっと照れくさくなったんですよ、ワタシ。

予感は外れていなかったな。楽しいインタビュー……いや、楽しい出会いでした。