先日、森美術館でおこなわれた映画「ANPO」の上映に行ってきました。
結果、ぜひ多くの方に見ていただきたい!!と思いましたので、コラムに書かせていただくことにしました。コラムは文字ばかりで恐縮ですがぜひ。映画の公開は9/18です!!
先行上映のことを知った時は、「日米安保にかんする、芸術家がでてくる映画らしい」
というあやふやなことしか分からず。
「ていうか安保闘争って、言葉は知ってるけど具体的には何も知らないな。日米安保条約についてはむかし社会で習ったけど…。けっこう近い歴史なのに。これは今後の自分の教養としても、行っておいたほうがいいんじゃないの?」と思い、行って来ました。
迫力の上映会
森美術館の会場は満席、監督のリンダ・ホーグランド氏の挨拶で上映が開始。
映画は、迫力の作品群の映像からスタート。安保闘争を描いた芸術家たち、今も日米関係に問題提起をし続ける芸術家たちのインタビューによって、60年安保闘争がつづられてゆきます。
1960年は、終戦から15年。今年は2010年ですから、15年前は1995年。阪神淡路大震災や、地下鉄サリン事件の年。時間的な感覚として、意外に近いことが分かります。
安保闘争の熱気、エネルギーは、戦争、終戦を経験した多くの人々の魂の叫びだった…。
スクリーンに映し出される映像を見ていると、本当にそんなことが感じられます。芸術家たちは、そんな熱気・エネルギーを、自分たちの作品にぶつけ、表現しています。
映画は実際に見ていただくこととして…。
映画のメッセージ
日本人なのに、日本のこと、何も知らないんだなぁって、改めて思い知らされました。
こんな時代があったことも。
沖縄旅行に行ったときは、美ら海行って、ぞんぶんに泳いで、リゾートして帰ってきましたともさ。
ときどき家の近くも飛行機が飛んでいるのは気になっていたけれど、府中の航空自衛隊基地、日米地位協定で米軍の一時利用が可能なんだってこと、たったいまWikipediaで知りましたともさ。…お恥ずかしいことですが。
私個人は、日本とアメリカの関係について、そこまで真剣に考えたことはありませんでした。こんなに熱く、抵抗した時代があったなんて…。
この映画の題材は60年の安保闘争ですが、メッセージは「いま」の日米関係についての問題提起です。
芸術という切り口で見せる、ANPO
この映画の良いところは、きわめて政治的なテーマを扱っていながら、芸術という切り口で”ANPO”を見せているところだと思います。
市民による史上空前の政治闘争、それでも覆らなかった安保条約、変わらない日米関係。
その背後に現実としてどのような問題がひそんでいるのか?
「ANPO」は、60年安保を切り口に、多重奏的に日米関係への問題提起をしています。さまざまな思いを”かたち”として表現するすべをもった芸術家たちの、作品を通して。
じっさいに安保闘争を経験した芸術家もいれば、1960年以後に生まれた芸術家もいる。
それぞれが異なる経験を通して、それを原動力に作品制作をしている。だからこそ、「ANPO」は投げかけであって答えではなく、感じ方はきっと人それぞれだと思います。
さまざまな表現が混在し、それらがより多面的に、テーマに問いかけてくれるのは、この映画ならでは。芸術作品を通して立ち上ってくる、問いかけは様々です。
トークセッション
この映画の監督はアメリカ人です(私はびっくりしました)。
日本における日本とアメリカの歴史を、アメリカ人の監督が映画にしている。日本人の立場から見ても、アメリカ人からしても、また広く国際的にも、非常に意義深いと思います。
上映が終わった後は、トークセッション。監督のリンダ・ホーグランド氏と、本編にも出演している画家の中村宏氏、写真家の石内都氏のトークセッションは、非常に刺激的で興味深いものでした。
日本に生まれ育ったアメリカ人監督
リンダ・ホーグランド氏は、黒沢明・宮崎駿はじめ多くの日本映画の英語字幕製作をしている方なのですが、アメリカ人でありながら日本で生まれ育ったそうです。
小学校4年生の授業で広島の原爆について勉強したとき、クラスメート達が、一斉に彼女を振り返った。そんな体験をもとに、戦争と日米関係について考え続けていらっしゃるそう。
「ANPO」を撮ったきっかけは、英語字幕の翻訳者としてさまざまな日本映画作品を見るうちに、1960年の前後で、多くの監督の作品が急に過激になったり、トーンが暗くなったり、という変化があることに気付いたからだそうです。
ずっと頭の中にあった「1960年に対するクエスチョン」が、今回の映画になったというわけです。
「現在は戦争の続きなんです」
中村宏氏は、ルポルタージュ絵画を描き続けていらっしゃる画家。映画中に出てくる作品も、ものすごい迫力です。会場から「なぜルポルタージュ絵画を?」という質問が出たのですが、「あの時代、表現の手段を持っていれば、誰もが自然と、そっちを向いていた」とのお答えでした。映画を通しても、そんな日本全体の熱気が伝わってきていました。
私たちが生きる今の日本はどうなのでしょう。
生きる時代と、自分の生き方って、すごく密接。生きる時代は選べない。
今の日本は「平和」なのか?自分の感受性は薄れていっていないか?「安保問題は今につながっています。現在は戦争の続きなんです」という中村氏の言葉が深く胸に突き刺さりました。
日本とアメリカのはざま
写真家の石内都氏は、映画の中でも、本人も、とても印象的な人物でした。リンダ監督の生い立ちと、自分の生まれ育った横須賀の街の特殊性をかさねて、「日本とアメリカのはざま」と表現しておられました。
横須賀は基地のある街。石内氏は「ドブ板通りを歩いてはいけない」と教えられて育ったそうです。ドブ板通りで女の子が米軍兵につかまったら、ひどい目に合うから。「立ち入ってはいけない場所」を身近に感じながら過ごした少女時代の話は、アメリカの基地が日本にあるという「違和感」について強く訴えかけられるものがありました。石内氏なりの「日本とアメリカのはざま」で生きてこられた人生は、作品にも強くあらわれているのではないでしょうか。
石内氏は横須賀の街を撮影した作品集も出しておられるので気になった方はぜひ。
ANPOの時代
会場には、当時小学生だったという方も来ていらっしゃいました。
「小学校の先生も、皆学校を留守にして、デモに出かけていた」とのお話。今の私たちからすると、本当に想像しがたい世界です。
60年安保の時代、傷ついた日本。
でも、その傷すら私は知りませんでした。
そんな時代があったということを、日本の若い世代に、そして世界に、伝えてくれる映画になってほしいなと思います。ANPOは、9月10日に開幕する第35回トロント国際映画祭で上映が決定しているそうです。
トロント国際映画祭HPの予告編は、日本向けのものとは少し仕立てが違うのでこちらもどうぞ。
トロント国際映画祭 ANPO紹介ページ
日米関係の歴史、そしていまの現実。それを知り、自分の頭で考えること。私には、そのきっかけとなりました。そんなわけで、ぜひ多くの方々に見ていただきたい映画です。
自分で表現活動をされている方には、また違ったインパクトがあるのではと思います!!
公開は9/18です。渋谷アップリンクはじめ、全国の映画館で上映されるようですので、ぜひ足を運んでみてください!!