“働く”って、めんどくさくね? vol.14「あきらめたくない」


みなさん、こんにちは。
ハチヨンライターの、桃子です。
おひさしぶりの、84世代インタビューコラムです。

3月11日、東日本大震災があった。今も続いている。
このインタビューは、地震の前におこなったものです。
記事も、地震の前には書き終えていました。タイトルもです。

今だからこそ載せたい、この記事。
あえて、地震が起こる前から一字一句変えずに載せます。
新しい命が、生まれつつある、今。
 
 
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先日、数年ぶりに、中学の同級生を訪ね、神戸に行った。
中学時代はいつも一緒にいて、毎日好きな人を追っかけてきゃあきゃあ言ってばかりいたのだけど、別々の高校に進学してからは3〜4年に一度会うかどうかというくらい疎遠になっちゃってた。
けれど、その彼女がまもなく子どもを産むらしい。なので、会いに行きました。神戸。
 
 
『あきらめたくない!(笑)』
山本みずき(もうすぐママ/大阪府)
1984年9月26日生まれ。高知県出身。中学でキャビンアテンドを目指し、高校の英語科に進学。神戸市外国語大学を卒業後、某老舗旅館に入社。2010年9月26日の誕生日に入籍。2011年3月末、第一子出産予定。
 

再会

神戸駅で待ち合わせ。
やたら重い荷物を抱えて、トイレに行きたい衝動も抱えて、迎えに来ていたみずきちゃんと再会した。
顔立ちは中学生のときそのままに、おなかはまるで膨らんだカエルの喉みたいに、美しいぶっくりとした球体。(たとえが悪くてごめんね。でも生き物の美ってかんじなの)
「子どもはね、つくろうと思ってつくったの。子どもが欲しかった。大好きな旦那様とチビに囲まれて送る平和は日々、憧れなんよ。その念願が叶う、幸せ!」
ほんとに幸せそうに笑うみずきちゃんを見て、わたしは素直に良かったなあ、いいなあ、と嬉しくて、ちょっとだけ羨ましい! けれど、わたしにはひとつの疑問があった。
だって彼女には、夢があったはず……。
 

中学生からの夢

中学の、たぶん1年生だったある日。
それはもう突然、みずきちゃんが「あたしスチュワーデスになる!」と言い出した。
そりゃみずきちゃんは美人だし、体力もあるし、いつも元気で笑顔だけど、スチュワーデスってめっちゃ狭き門というイメージ。正直、心のなかでほんまかいと思っていたわたし。
けれどみずきちゃんは勉強して、県内の進学高校の英語科に入学した。
恋愛至上主義女子だと思ってたのに、本気なのね、すごいやん!

スチュワーデス=キャビンアテンダントになる目標をずっと持ち、彼女は外国語大学に進学した。
そういえば大学生のときの就職活動の時期に、数年ぶりにみずきちゃんと会ったことがある。
東京の大学でぼーっと過ごしていたわたしに彼女は、
「もしキャビンアテンダントになれなかったら、今まで追っかけてきたものがなくなったら、自分にはなんにもなくなっちゃう気がする」
と言っていたのを覚えていた。なーんにも考えてなかったわたしはぼーっと、積み重ねて努力してきたことがあるって素敵だなあ、とのんきに思っていたのでした。

もう、キャビンアテンダントは目指さないのかな。
26歳。結婚して、子ども産んで、主婦になるのかな。
そう思って仕事のことは聞けずにいると、みずきちゃんは自分から、
「私、家にずっといるよりいろんな人に会っていたい。専業主婦じゃなくて、また働きたいのよ。今は出産前で子どものことしか考えられないけど、30歳になるまでキャビンアテンダントの採用試験は受け続ける」
とすごい笑顔で言う。
「空港とは違う職場に就職してからも、キャビンアテンダントの就職試験を受けていたけれど、書類審査に通っても仕事が忙しくて試験当日に行けなかった。一度夢をあきらめちゃったんだよね。あのとき試験に行ってたら、もしかしたら今ごろ飛行機に乗っていたかもしれない。やっぱり、あきらめたくない」

一般的に、30〜35歳が年齢制限といわれるキャビンアテンダントの採用。最近は、20代後半の採用者も多いと耳にしたことがある。社会経験も積んで、キャビンアテンダントをひとつの仕事として冷静にとらえられる世代だから、と。(ほんまかな)
まだまだ可能性はある。
あきらめたらそこで試合終了だよとか言ってたバスケ部顧問の言葉はほんとかもしれん。
みずきちゃんの前向きな笑顔を見てたら、なんだかわたしも、なんでもできる気がしてきてしまった。不思議だ。
 

ママになる

みずきちゃんが「可愛くてキュンキュンしちゃうの!」とのろける旦那さんを紹介していただく。
わたしの思い出のなかでは、彼女はとーーっても歳上好き。あのとき好きだった人もあの彼氏もあの彼氏も、かなり歳上だった。(わたしも人のことは言えんが)

しかし紹介された旦那さんは、同い年。シャイで感じのいい、少年ぽさのある人でした。

出会いは、旅館で働いていいた彼女を旦那さんがナンパしたらしい。(いいなあ。)
「彼に会って、近い歳の男性の良さがわかってきたよ〜。もう、可愛くて、毎日キュン死にしそう!」
とのろけるみずきちゃん。恥ずかしそうに笑っている旦那さん。うらやましいやないか!
「彼をいつまでもワクワクさせられるような女性になるべく、仕事もプライベートも自分磨きを頑張りたい。いくつになっても女を忘れず、アクティブできれいなママ&妻でいたいなー」
なんか、みずきちゃんだけじゃなく、旦那様までうらやましくなってきた。

「最近の趣味は、週末に一緒に釣りに行くこと。いまは妊婦だから激しいスポーツはおあずけだけど釣りは行くよ。来週も早朝から行くんだ。もう車中泊も慣れたもんね」
と臨月のおなかで爆笑。ほんとに、彼女は再会してからずっと、笑いっぱなしだ。
「出会ってすぐに結婚を決めたし、妊娠もしたから、親とはちょっとモメたこともあった。でも今は応援してくれるよ。家族を持つ幸せや、チビを授けてくれた旦那様、周囲の方々にほんとうに感謝してる。私の笑顔や些細な事でも、ちょっとずつ他の人に恩返しが出来ていければなと思って、毎日明るく過ごしてます!」
もともと感情表現が豊かで、笑うのも泣くのも怒るのもまっすぐに表に出すみずきちゃんだったけれど、そのなかでもいま笑顔が絶えないのは、周囲に対する感謝の気持ちが強いからなのかもしれない。
 

空港

「神戸空港に行こうよ」
とみずきちゃんが言った。
「夕日が、きれいなんだあ」
神戸空港は、ぴょこんと瀬戸内海に張り出していて、そこから飛び立つ飛行機は、海の向こう…
どこか遠くへ行ってしまうような気がする。きれいな場所だ。
「いいね、行こう」とわたしも答えた。
 
 

 
 
わたしはひとつ、みずきちゃんに質問をしてみた。
とっても今さらな質問なんだけど、今まで知らなかったから。
「なんでキャビンアテンダントになりたいと思ったの?」って。
すると彼女はこう答えた。
「中学の授業でね、すごく英語が好きになったの。先生が良くて、授業がとても楽しかった。覚えてる? 飛行機も好きだったし、キャビンアテンダントだったら英語も飛行機も両方にかかわれるやん!って。しかも女性の花形、ってイメージの職業だったし、憧れたんだよね」
覚えていなかった。
同じ教室で同じ先生の授業を3年間受けたはずなのに、わたしは英語の授業が面白かったのかつまらなかったのかすら記憶にない。苦痛ではなかった気がする…という程度。
神戸案内をしてくれる途中、外国人に英語で道を教えていたみずきちゃん、と、外国は好きで行くけど英語は雰囲気と勢いで乗り切ってきたわたし。
思春期に同じ経験をしていても、分かれ道はそこらじゅうに転がっているのだな、と思った。

空港。

残念ながら、沈む夕日には間に合わなかった。
けれど、飛行機が飛ぶのを見ようよ、と、滑走路に面したカフェに入った。
日が沈んで、白と濃紺のグラデーションの空を飛んで行く飛行機を見ながら、みずきちゃんが独り言みたいに言った。
「ライト兄弟はすごいなー。あんな鉄のかたまりが飛ぶなんて。それはこわいけど、でも飛行機見てると落ちつく」
飛行機がお尻をちかちか光らせて空の向こうに飛んで行く。
みずきちゃんの、妊娠してちょっとふっくらとした横顔を見て、ああ、この子はもうすぐお母さんになるんだ。わたしたち、もう26歳なんだなあ、と思った。
 
 
 
 
 
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この数日間にも、被災地で産まれた命のニュースがありました。
2日ぶりに救出されて、「再建しましょう!」と笑ったおじいさんの笑顔もありました。

どんなものになるかわからないけれど、わたしたちには『これから』があります。
『これから』は、望んでも、望まなくても、やってきます。
今だからこそ、その『これから』について考えたいと思います。
 
 
みずきちゃ〜ん!来週あたり、ええ子を産めよ〜〜〜(*^0^*)/~~~