“働く”って、めんどくさくね? vol.5「結局は、自分」 


“働く”ってめんどくさくね? とインタビューを始めて6人目。
「めんどくさーい」が口癖のライター・桃子です。こんにちは。

中学校の将来の夢に「一生遊んで暮らすこと」と書きました。
働くってめんどくさい…ような気がする(←気弱)

そんなわたしが今回お話を聞いたのが、今の職場で社会人経験7年目のハチヨン。
和食職人の安藤君です。
小学生の頃から寿司職人になりたかったという彼。やーべーあたしと全然違う!!
どんな人が来るのかドキドキ…と待ち合わせ場所に向かった(しかも遅刻した)
私を待っていたのは、優しい笑顔でした。

よ、よろしくお願いしまっす!

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安藤「日常のなかの非日常に気づくこと」


安藤知之(和食料理人/宮城県仙台市)プロフィール
1984年10月30日生まれ。千葉県出身。武蔵野調理師専門学校卒業後、横浜の和食料理店に就職。今年8月から、仙台に新しくオープンする店舗で、オープンメンバーとして働くことに。

大学に行くという選択肢は、なかった

小さいころから料理人なりたかったの?

小学校5年生くらいの頃から、寿司職人になりたかったんだよね。
もともと作ることは好きだったし、なによりマンガの「将太の寿司」にはまった。他にも「ミスター味ッ子」やドラマの「味一もんめ」にも影響されて、将来は寿司職人で決まりだって思った。
寿司職人になるつもりだったから高校にはいく気がなかったんだけど、
親や先生に「高校3年間で気持ち変わるかもしれないから行ってみなさい」って言われて、高校に進学してからその後料理の専門学校に行くことにしたんだ。
その頃はまだ、専門学校は勉強してない人が行くみたいなイメージがあったから、そういうふうには絶対言われたくなかった。だから高校時代は勉強をがんばったね。それに、万が一挫折したときの保険っていうのもちょっとはあったかな(笑)

結局、高校の3年経っても気持ちは変わらなくて調理師学校に進学した。大学に行くっていう選択肢は俺の中になかったからね。

小学生からずーっと寿司職人になりたかったんだ。
それがなぜ、お寿司だけでなく和食の料理人に?

ずっと寿司職人になりたかったし、今もそう思ってる。
だけど専門学校の先生に「これからの時代は寿司だけだと厳しい」って言われたんだ。

「もっと和食の広い世界を知って、それでもお前が寿司をやりたかったらそれからでも遅くはない」って。

寿司のみを追求するのか、他にもいろいろできたほうがいいのかは考え方にもよるけれど、結局は自分が最終的にどういうことをやりたいのかだと思う。
俺は、先生に言ってもらったとおり寿司だけじゃなくて和食全体をやることで選択肢が広がって良かったよ。
寿司屋に就職していたら、煮物も作れないし、すっぽんもおろせない、使える包丁の種類も少ない。カウンターに出てお客さんと対面することもなかったかもしれない。
先輩だけでなく、サービス担当の人からも、お客さんからも勉強できることはあるから、とても視界が広がったよ。

今の職場では、初めの2年間は寿司場にいて、そのあと焼き場や油場も経験して、いろいろな役割をコンスタントにできているかな。焼き場や油場のノウハウを生かして、また寿司場に戻れたりもするしね。結果的には、すごく良かったなって思ってる。

今年で今の会社に勤めて7年目だよね。
辞めちゃう人は多いの?

多いね。厳しい世界だし、理想と違ったりするみたい。
女の人だったら結婚してやめる人もいる。時間も不規則だし、育児との両立とかは結構難しいと思うよ。俺としては、入ったころは手を出されたこともあったけれど別に理想と違ったと思ったことはないし、全然許容範囲だったな。
初めは魚ひとつ上手におろせなくて怒られて、毎日スーパーで魚買って店が終わってから隠れて練習したりしてたよ。
料理人は、身体で覚えるようなところあるから、まずは魚に慣れないと、と思ってね。あたまではわかっていても身体がわかっていないと動けないんだ。だから1年や2年なんてあっと言う間にすぎちゃった。
あと、寮でもスッポンをおろしたこともあったな。処理がたいへんだからもう2度とやらないけどね。今考えたらよくやろうと思ったよ(笑)

じゃあけっこう順調にここまで来たんだ?

いや。勤めて3年目くらいの時に、一度だけ、本当にもう辞めようって思ったことがあった。
仕事もできなくて、先輩とも上手くいかなくて、誰も信用できなくなっちゃったんだ。
一回やめたいって思うと、それしか考えられなくなるんだよね。
店長に「辞めます」って言ったら、翌日からいろんな先輩がとっかえひっかえ飲みに連れて行ってくれた。
いつもはすごく厳しい先輩も「別におまえのことを心配してるわけじゃないけど」から始まってあーだこーだ言ってくれて。
今は、そのとき辞めなくてよかったと思ってるよ。その経験があったから、後輩が辞めたいと思わないようにと気を遣えるようになった。順当にきていたらわからないことも多いからね、いい経験だったよ。

現実は同じ作業の繰り返しだからこそ

もう小さな頃からずっと、目指しているところは同じなんだね。
他の職業に就きたいって思ったことはないの?

途中、専門学校で料理を教える先生として就職しないかって話をいただいたこともあったよ。もともと教えることは好きだったけれど、でも俺先生になるために料理人になりたいと思ったわけじゃないなって思ったんだ。

ずっとなりたいものがあって、それをやっているって、凄いと思うし、羨ましいかも…

それはよく言われる(笑)
でも、他の人に話すときにはかっこいい部分しか話さないじゃん。
だから、やりたいことをやっている人って輝いてみえるかもしれないけど、現実は毎日同じ作業の繰り返しで、なあなあになってしまっている部分もあるよ。
けれどそのなかで、
ちょっと朝早く出勤していつもやらない仕事をやるとか、
卵焼きを巻くのは他の人に負けないようにしようとか、
そういう新しい気づきや目標を持つようにしているね。

毎日同じ日常のなかに、ちょっとした“非日常”を探すようにする。それが続けていくためのコツかな。やっていれば、まわりも気づいてくれるしね。
結局は本人しだいで、限界はないんだよ、きっと。

将来はやはり、“寿司”

将来はやっぱり、寿司職人?

うん、寿司屋になりたい。まだ漠然としているけれど、自分ひとりでやっているような個人店を持ちたいんだ。
とりあえず、8月から仙台で新しくオープンする店舗に配属が決まっているからそこで働いてるよ。オープンメンバーになるのは初めてだから、とてもいい勉強になると期待してる。そして、いずれは個人店の寿司屋に勤めてノウハウを学んで、将来的には自分の店を持ちたいな。

今はそのためにいろんな経験を積んでいる時期かな?

そうだね。職場でいろいろな経験をさせてもらえるのとともに、寿司の勉強のためにひとりで個人店に食べ歩きに行ったりするよ。そこで話を聞けそうだったら聞く。お店によって全然違うからね。
たいていお寿司屋さんに食べに行くんだけど、カウンターに座ったら同業だって一発でわかっちゃうの。やっぱり目線が違うんだって。
でも俺も、カウンターに立ってたら、たぶんわかるんだろうな。

料理人ならではの目線があるんだろうね。わたしにはわからないけど…

でも料理人としてはまだまだだからね。職場の料理長は、俺の人生分くらい料理をやってる人だから、そういう人たちの話聞いてたら、はっきり言って爪の垢みたいなもんだよ。

84 ~ハチヨン~

ハチヨン世代のなかでも、働き始めるのは早い方だと思うけれど同世代についてはどう思う?

同世代のことが気にならない訳じゃない。
飲みに行って同い年と盛り上がって、「こいつもがんばってるんだ、俺もがんばんなきゃな」っていうのはある。
でも、人生は長いからね。だからあんまり、早いとか遅いとかどうなのかなって思う。それは気にしなきゃいけないことだと思うけど、でもそうやって押しつぶされる必要もない。それに、働くだけが人生じゃない。今はパソコンひとつでいろんなことができちゃうし。

学校では先生の言ったことがほとんど正しいし、勉強だって正解はほとんどひとつしかなかった。でも社会人になると、答えなんて無数にあるんだと思ったよ。料理の世界でも、人によって全然やり方が違うからね。

だから結局、自分で選んで、「そのときの一番正しいものはこれだ」って思い込んでなにかをつかみ取っていくしかないのかなと思った。
すっごく難しいけどね。

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迷いなく、丁寧に話す。

私、しどろもどろ。
最終的には、「 こ、この手が寿司を握るんですかあ! 」と手をガン見。
それをにこやかに笑って見ている安藤君。

“一生遊んで暮らしたい“中学生だった私と違い、小学生のときから寿司職人を目指し続けているゴーイングマイウェイさ。わき目もふらず我が道を突き進むかと思いきや、立ち止まって人の話を丁寧に聞く姿勢。
こういう人がカウンターにいるお寿司屋さん、いいかもしれない。

彼がお店を出したら食べに行こう……というためには、「一生遊んで暮らしたい」なんて言ってられないんだろうな。