“働く”って、めんどくさくね? vol.10 「最終的には60億人!」


文化庁がおこなっている「新進芸術家派遣制度」ってご存知ですか?

これ、いったいなんなのかというと、
『いろんなジャンルの若手芸術家に、海外の大学や芸術団体などで実践的な研修が受けられる機会を提供する』
という文化庁のシステムです。

今回のインタビューでは、
「おもしろそうな人がいるよ。会ってみようよ!」
という84世代の友人の誘いを受け、この制度でオランダに行っていた大野くんにインタビューのお願いをしたのでした。
 
 
大野くんは、大学院の博士課程を休学して1年間オランダへ。
そして今年の8月末に帰国。
帰国直後なのに、突然のインタビューのお願いにこころよく応じてくれました。
「84ismってfacebookで見て気になっていたんですよ」とのこと。

でも若手芸術家といっても、芸術にもいろんなジャンルがあります。
……いったい彼は何をしているひとなんだろう?

事前に仕入れた情報だと、彼の専門分野は“ランドスケープ” らしい。
しかしこれだけじゃ、具体的なことはなにもわからない。無知でごめんなさい。

私 「えっと……大野くんは、なにをしている人って紹介すればいいのかな?」
大野くん「ランドスケープアーキテクトです」

……ら、らんどすけーぷあーきてくと?
うーん、うーん、ランドスケープだけでもわかってないのに、アーキテクト(建築家)がくっついてよけいわかんなくなった…それってなんなの?
 
 
みなさん、”ランドスケープアーキテクト”、ご存知ですか?

村上龍さんの「13歳のハローワーク」の一文をさらうと
『ランドスケープアーキテクト:歴史的建造物や自然風景を保全したり、広場や街路などをデザイン、設計する。』。

なんとなくわかる、気がしてきた。気のせいかも。
そんなド素人の私……すみません大野くん、一から教えてくださいっ!
 
 
 
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「最終的には60億人!」
 大野暁彦(ランドスケープアーキテクト/千葉県)
 

東京都出身。千葉在住。千葉大学園芸学部卒業後、千葉大学大学院修士課程に進学。2009年9月から1年間、文化庁新進芸術家派遣制度でオランダへ行く。今年8月に帰国し、千葉大学大学院博士後期課程に籍を置く。1984年10月4日生まれ。

ONO AKIHIKO_LANDSCAPE ARCHITECT

ランドスケープってなに?

8月にオランダから帰国したばかりなんだよね

そう、オランダのユトレヒト。ミッフィーの産まれたところだよ。
大学院の博士課程に半年行ってから、去年の9月から、1年間『文化庁新進芸術家派遣制度』でオランダに行ってたんだ。派遣制度を利用している人では、30歳や40歳の人もいるから、若くして行けたのはラッキーだったなー。専門はランドスケープデザインだよ。

そもそも、ランドスケープデザインってどういうものなの?

ランドスケープという概念は、アメリカで出来たものがそのまま日本に持ち込まれただけで、日本語のうまい訳語がまだない。なにって言われたら、みんなそれぞれいろんな言い方をする。まあ単純に「風景」って訳すだけだとなんか物足りない。

直訳すると「風景をデザイン/設計する」ってことかな。
そのランドスケープデザインを学ぶには、オランダがいいの?

僕がオランダに行ったのは、オランダには僕の思うランドスケープというものがあると思ったんだよ。
オランダは日本と違って、ランドスケープデザインの考え方が国土レベルにまで達しているのね。国の全体の景観から、広場とか小さな公園のデザインまで、大きなレベルから小さなレベルまで一貫して設計されている。
根本的な話をすると、オランダっていうのはもともと海で、泥地帯だった。そのなんにもないところから埋め立てをしたりして土地を形成してすべて作っていった。自然も、都市も、すべてゼロから作っていった。それがすごく興味深かった。
オランダのように、土地から都市まですべてを設計する。大きなものから小さなものまで一貫してデザインするのが、僕の思ってる「ランドスケープをすること」だろう、と。

なぜランドスケープデザインを?

僕は、小さい頃医者になりたかったの。なぜかというと、お医者さんっていうのは人を助けて、人のためになることができる。だから、単純にお医者さんになりたかった。直接的に人を助けられるという喜びはわかりやすいと思ったんだよね。けれども進学のときに医者は諦めた。
ちょうどそのころ、環境問題が注目されてた。そこで、医者だったら1000人くらいしか助けられないかもしれないけど、環境問題に取り組めば、60何億人に対してなにかアプローチができるかもしれないと思ったんだよね。
高校生だからね、単純にそう考えた(笑)
それで、環境問題に関することがしたいなーと思ったのが初め。その手段として、”ランドスケープデザイン”、つまり、「空間設計」を考えている。
だから根本は誰かのためにデザインをすること、って思ってる。

人のためになりたい、と。

でも、人のためになりたいって本気で思えたのは最近だよ。
高校の先輩で、僕がハッピーになればあたしはハッピーよと言う人がいて、そのときの僕は、えーうそだーと思った(笑) でも最近は人の幸せが自分の幸せと感じられる。なんでかなあ。人のためになったことが、本当に自分の喜びにもなるって実感するまでには、けっこう時間がかかったなー。

大きなデザインと小さなデザインを繋げる

大学院ではなにを研究していたの?

日本の庭園について研究してた。日本の庭園研究って、池のかたちがどうとか橋がどうとか、庭そのものの研究が多いのね。基本的に、日本は小さな規模のデザインが主流。でも僕はもうちょっと大きな視点で考えたい。
各地に点在していた庭が、庭単体だけでなく、都市レベルでも何か意味があるんじゃないか、という観点で僕は研究をしている。

ええーっと……ごめん、例えで言うと?

たとえば、庭園の池が水系(河川や湖など)とつながって調整池となっていることで、低地に発展した東京の下町を洪水から守ったんじゃないかとか、独特の東京の地形を庭園をつくることでうまく生かしたんじゃないか、とか。

庭は、東京の各所にあってそれぞれ独立しているみたいに見えるけれど、それは東京規模で見たらなにかひとつの役割を果たしてるんじゃないかってことか。

まあ、そうだね。デザインというジャンルで、僕らの生活レベルの小さなスケールの話と都市レベルのスケールの大きな話をいかにつなげていくかを研究してる。だから文化庁の派遣先はオランダにしたんだ。オランダは、小さなデザインから大きなデザインまで一貫しているからね。

なるほどー。小さなことと大きなことをつなげて考えるんだね。
そういった研究が、先に言った環境問題とかに関係していくんだ?

そうだね。たとえば屋上緑化もそうで、
「東京都のすべてを屋上緑化しましょう」なんて都知事さんは言うけど、それは国全体で大きなガイドラインをたてていかないと、環境問題はすぐそこまできてる。
ヨーロッパに比べて、日本の環境への危機意識はすっごく低いんだよ。
お金のかけどころから計画したうえで、実際の空間作りに反映しないと、深刻な影響をうけてからじゃ遅い。
だから、これからの日本には、環境問題に対して大きな視野で国土計画や戦略を練れるような人材が必要だと思うんだよね。

たしかに、環境問題ってよく聞くわりに、切羽詰まってる雰囲気はないかも…

環境問題だけにかぎらないよ。
たとえば実際にあるプロジェクトに、鬱病患者の為のセラピーロード…セラピーするための道、がある。そういった鬱病などの、今の社会が大きく抱えている問題に対して、空間というのはどう向き合わなきゃいけないのか、それを考えていくことが、まあ、僕が思うランドスケープデザイナーの役割かなあと思っている。つまり、社会問題や環境問題という大きなテーマに対して、どう空間を形成していくかってことだね。

僕らの時代は、“つながり”だから

帰国後のこれからの生活は、働きながら大学院に通うとかかな?

それは僕の挑戦で、設計の実務経験を積みながら、大学院の博士課程で論文を書こうかなと思ってる。
帰国したばかりだから、まだなにも具体的に決まっていないけどね。
それに「設計」といってもいろいろあるから、関わり方を考えないといけないし。今またひとつ大きな岐路に立ってるのかなー。

博士課程修了後はどうするの?

大学機関で研究を続けながら、時期がくれば日本で自分の設計会社を作るのがベスト。研究で大きなデザインをして、実際の設計で小さなデザインをしたい。
僕の目的は、設計によって日本を良くすることだからね。そのためには、国レベルのデザインと身近なデザインと、どちらかに偏ったらダメ。両方からアプローチする必要があると思う。

なるほど。だから大学と会社の両方に関わることが重要なんだ

そう。そこで一番大事なのは、誰かと協力しながらじゃないといけないってこと。ひとりの力だけじゃうまくいかない。僕たちの時代で一番重要なことは、業界だとか仲のいい友人を超えたつながりをうまく作っていくことだと思うんだ。

いろんな人とつながっていくことで
大きなデザインも小さなデザインも可能になるのかもしれないね。
それは、世界でも東京でもなく、日本規模で?

最終的には世界ですね。60億人へのアプローチだよね、最初にいったけど。ほんとにそうで、僕がランドスケープやってるのは、自然だとか人間社会と都市はどう向き合えばいいのかっていうのが一番単純なテーマになる。
だからそれに対して、東京、ニューヨーク、パリ…それぞれケースが違って、そのなかでどう自然と向き合っていくかを考えるのが、環境問題や社会問題につながる。
自然および社会環境全体に対してどうアプローチしていくかをいろいろ提案してアイデア出して、それで地球全体で変わっていけばいいなあ。そういうことに関わりたい。

26歳 〜84世代〜

大野君は26歳になったばかりだね、おめでとう!
26歳って、どういう時期だと思う?

この歳になって具体的にどうするのかってことをだんだん考えてきたよ。
僕のまわりの人…それこそ84年生まれはもう仕事をして3年目か4年目が多い。でも僕はまだ学生なんだよね。
身分は学生だけれども、「あなた学生ですか」って言われたくない。言われてもしょうがないけども、悔しい。だから僕は、どうやって起業するか、どうやって自分がビジネスマンとして売り出せるかってずっと考えてきた。おまえどうせ学生だろって言われないように、自分を育てようとしてきたんだよね。

でも、大学院に行かずに働くっていう選択はなかったわけだ?

同期は、職場ではもう後輩もいて、お金を稼いでボーナスがあって、人によっては結婚して子どももいて…。いろんないい話を聞くと、ああちょっと失敗したかな〜〜なんて思ったりするけどね(笑)
でも僕は、人生は波が大きいほうが絶対おもしろいと思ってる。今僕が学生であることは、30歳や40歳になったら価値になるからね。だれかと同じ選択である必要は無いと思うよ。

なんか、マジメな話ばっかりになっちゃったねー
 
 
 
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84世代インタビューも10人目。
主婦、料理人、専門学校生…いろんな土地に住むいろんなハチヨン世代に話を聞いてきました。いやあ、まさにみんなそれぞれです。

それぞれとはいえ、地球という規模で見れば、60億人のおんなじ人間なわけで。
(人口は増え続けてるから、今は67億人近くなってるらしいけど)

大きなデザインと小さなデザインをつなげるっていう大野くんの研究しているランドスケープデザインのように
それぞれ違う生き方をしている個人がつながっていくと、それが大きな地球規模でのつながりになるんじゃないかなーなんて気がせんでもない。

今はインターネットが誰でも手軽にできるし、
「facebookってナニ?」
「スカイプってどうやんの?」
「ユーストリーム、なにそれアイスクリーム?」
と疑問を持ってやってみたら、思わぬ遠い地の人と簡単につながれるかもしれません。

そして、直接会ってみれば、その人が生涯の伴侶になるかもしれない!
なんて妄想も可能性も広がりますね〜
 
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