普段目にすることがないであろう日本語の奥深い表現が味わえる『官能小説用語表現辞典』


「聖マリア像」「安達ヶ原の黒塚」「禽獣の嘴(きんじゅうのくちばし)」。
これらすべてが同じものを表現している、ということを聞いて驚く人もいるかもしれない。この3つはすべて、女性器を表した用語として実際に過去に使われた表現なのだ。しまいには、「小宇宙」という表現が使われるくらい、日本語として、かなり奥深いというか、表現豊かなものだと歓心します。これらの単語が収録されている『官能小説用語表現辞典』を買って読んで、言葉の面白さなど、なかなか興味をそそる辞書でした。

先日、セクハラインターフェイスを開発しパフォーマンスをおこなった友人の市原えつこ氏が主催した「これからの性とアートの話をしよう」のイベントに参加してきました。色々なライトニングトークがあったのですが、その中で官能小説の奥深さについて語るライトニングトークもあり、その官能小説の表現の奥深さを痛感した際に、話の中で盛り上がったなかにこの辞書がでてきてたのです。そこで、さっそく買って読んでみたところ、その表現のレトリックや日本語の豊かな言葉遣いの面白さを感じました。

ちなみに、男性器の表現としては「大業物」「イギリス製の鉄兜」「黒曜石」、ときには「荒れ狂うもの」などということで、容姿の表現や好戦的な表現が多くみられます。しかし、その表現の多くは単調であり、女性器と比較すると、「官能小説用語表現辞典」では女性器の総ページを含めると220ページ(女性器以外にも、女性の身体に関する表現全般)に対し、男性器を含めた男性の身体全般は60ページしかなく、ページ数でいうと約3倍強以上もの差がつくくらい、表現されている言葉が違うと言えます。

もちろん、官能小説の読者の主なターゲットが男性である、ということも考慮すべきかもしれませんが。しかしそれを踏まえても、様々な表現や比喩を駆使して表わそうとする意識、そして、その比喩から導かれる言葉の豊かさは、普段のビジネス文章や新書や単行本と言ったもの、ときに小説などの表現とはまた違ったもので、単純に読み物としても読んでて飽きないものだと思います。

ところで、女性がメインの官能小説というものを、あまり見たことはない(おそらく、あるのだとは思うが)し、そしてかたやBLなどおもに女性が読むものに対して、男性が読むレズ同士のやりとりというものも少ない。読者ターゲットと作られる書籍によって色々と表現も変わってくるのかなと思うのと同時に、実際の書籍としての需要と供給がどうなっているのか、考えてみるのも面白いかも。

ちなみにこの『官能小説用語表現辞典』は、もともと大きな辞書だったんだけど、文庫版になって安くて軽くなってるので、ライターとか編集者の人も、騙されたと思って買って読んでみるといいかもと思います。色んな文章を読むところから表現の練習はできると思っているので。誰かに見られても「仕事の一環で」と言えば言い訳もできる、そういう予防線をはれるのではないだろうか。

個人ブログ「being beta」からの転載。