保育園は原生林のとなり @北海道


『結婚しました♪』
『ベイビーが誕生しました★』

今年26歳のハチヨン世代には、そういう方も増えてきたのではないでしょうか。
ときどき届く幸せご報告メール。
もしくは人づてに聞く「子ども産まれてるらしいよ」という噂トーク。
ああ、もうそんな歳なのね。そんな現実がそこらに見受けられます。

ではみなさん。
お子さんが産まれたら、その子たちをどういった環境で育てますか。
小さな頃になにを食べさせどう育てるかで、その後の身体の形成や考え方に影響を来すという話はよく聞かれます。

わたしは今、日本全国を車であちこちふらふらしているのですが、
(おかげで妊娠の兆候は見受けられません。というか、相手がいません)
その途中、ひとりの女性とお会いしました。

場所は北海道、札幌市。
小さな子どもたちが一日の大半を過ごす場所をつくるために、奔走している女性です。

保育園に入園できない!?

遠山有紀さん(仮名)は保育関係の仕事をしている方で、同時に、大学生の息子さんを持つお母さんです。上品で、美人な奥さま。にこにこと笑顔を崩さずに、遠山さんは言いました。

「0歳の子は保育園に入園できても、1歳の子は入園できないことがあるの」
わたしはすぐには意味がわかりませんでした。

「ど、ど、どういうことですか?」
慌てて聞き返すわたしに、遠山さんは丁寧に説明してくれました。

「0歳児の認可保育園(設備や保育士の人数など、国が定めた認可基準を通っている保育園)の入園は比較的簡単だけれど、1歳になってしまうととっても入りにくくなるの。
というのは、0歳の子は1歳の子どもより、国から降りる補助金の額が多いから、保育園としては0歳の子のほうが受け入れやすいのね。それに、0歳で入園した子は翌年もそのまま保育園にいられるから、人数的にも1歳の子を受け入れられる枠が狭くなる。
近年、親御さんのほうは育児休業などの福利厚生も充実しているけれど、比べて受け入れ側の保育園では、まだ態勢が追いついていないのよ」

遠山さんに伺うところによると、札幌市では今保育園や幼稚園の入園待ちをしている待機児童が2000人以上いるといいます。

日本国内の他の地域によっては待機児童が0人の都市もあるけれど、札幌市が大きな市だということもあって、こんなにも待機児童が存在してしまうというのです。おお、知らなんだ。でも知らんだけでたぶん、そういう状態の都市は札幌市だけではないんだろうな。と調べてみると、日本中には今、2万6千人以上の待機児童がいるという。ちなみに札幌市の待機児童は、横浜、川崎に続いて全国3位…〔待機児童ニュース〕

ふと浮かんだ疑問をぶつけてみました。

「じゃあたとえば、子どもが1歳になってから仕事の都合で転勤してきたら、子どもを保育園に預けられないこともあるってことですか?」

「そうなります」

とすると、どうなるか……。
保育園にも入れられない、近くには子どもを預けられる両親も友人もいない。子どもの養育費も稼がなきゃいけないのにその子どもを預けられる場所がない……げえ。
それはマズイ。

26歳。
わたしももう子どもを産んでもおかしくない歳になってしまった。
(働きもせず日本中を旅行なんかしているので現実的には無理だが。というか相手がいない)
でも、保育園に子どもを預けられない可能性なんて考えもしませんでした。子育ての方法なんて学校でもならわなかったし、子どものことはできてから考えればいいだろうとのんきに思っていたのに!

札幌市には、保育園が利用できずに困った親御さんからの相談の電話が絶えないそうです。
「その現状を知って、なんとかしなきゃと思ったんです」
そこで考えたのが、保育園を作ることだったのだそうです。

子どもが過ごす場所だから、子どもの目線で

保育園といっても、いろいろな保育園があります。国の認可を受けている設備の整ったところから、アパートの一室を借りた託児所のようなところまで様々です。
「せっかく作るのなら、とことんこだわった保育園にしたい」
遠山さんは、今まで働いていたことがあるとはいえ、経営のノウハウなどはまったくない。まったくのゼロからのスタート。

「保育園を作ると決めて、いくつもの保育園を見学しました。最初はわたし、駅に近い商業施設のなかに保育園を建設しようと思っていたんです。近くにいろいろあって便利だし、送り迎えも楽だし。でも、いろいろな保育園を見ているうちに違うと思った。子どもが一日のほとんどを過ごす場所なのだから、親の視点ではダメだ。子どもの目線で、子どもにいい環境にしないといけない」

そこから探しまわって見つけたのが、原生林の隣に広がる土地。

「ここだ!と思って、飛び込みで地主さんのお宅にかけあいました」

地主さんにはとりあえず承諾をいただいたものの、なにもない土地。ここに建物を建て、職員を集めたりしなければいけないのです。

まだなにもない土地。奥には原生林が広がる。
「園内に小さな畑を作って、子どもたちが触れられるようにしたい。休み時間には野菜を育て、採れた野菜でお昼やおやつを作る。農業が遊びになればいい」
イメージは膨らむ。

保育園は子どもが育つ場所。命にかかわる場所

となりが原生林というだけあって、保育園の予定地は市街からすこし距離があります。いくら環境がいいといっても、そんなところに人が集まるのでしょうか。

「それはとても心配なところ。でも、大事な子どもが生活をする場所だから、環境にこだわる親はたくさんいると思う。それに、自分が息子を育てていたときのことを思い出すと、保育園の送り迎えの時間はとても楽しかった。その間だけは、2人だけの時間だったのよ」

遠山さんは近々、土地のすぐ近くにある大きな会社に、ここに保育園ができたらどうかとアンケートをとるそうです。着実に、計画は進んでいます。
今はちょうど、保育園となる建物の模型ができたところ。まだ案は第一弾の段階。これから推敲を重ねて、形が決まっていきます。

遠山さんが保育園を運営するにあたって設立する会社の名前は『ico(イコ)』という。
アイヌ語で“宝物”という意味の『イコロ』からとったそうです。

「不安を言ったらきりがないけど、途中で辞められない。保育園は子どもが育つ場所。命にかかわることだもの、始めたからには責任がある」

“宝物”である子どもたちの命を育てる場所……ico −イコ−。

どんな場所で育つかは、その後の人生に大きく影響してくる。
遊び場、初恋の男の子、読んでもらった絵本、おばあちゃんと歌った童謡。
自分の小さな頃をふりかえっても、今につながるものがある。
開園まであと何年かかるかはまだわからないけれど、もし自分の子どもを保育園に預けるなら、こういう愛情のこめられた場所がいいなと思いました。

今年、26歳。
同級生が何人も結婚し、子どもを産んでいく。それでもあまり実感のわかなかった子育て。
けれど、子どもを育てていくうえでどういうことが必要になってくるのかについてあまりにも無知でいては、きっとそれは自分に返ってくるのでしょう。

どういう環境で子どもを育てるか。そのためには自分がどうしていかなければいけないのか。ちゃんと事実を知って、考えること。
“計画的に産む”って、きっとそういうことなんだろうな。

いやまあ先に相手を見つけなきゃですけどね。そこも計画的に攻めるべきだろうか……。